牛乳

初めて牛乳を飲んだ時のことは今でも鮮明に覚えている。

あれは幼稚園での出来事だった。プラスチックのコップに入れられた白い液体は独特な匂いを放っていた。

そして、一口含んだだけで自分とは相容れないものであることが本能的に分かった。

 

「牛乳を飲むと身長が伸びる」

この迷信を聞いたことがない人はきっといないだろう。

もしこの迷信が本当だとすると、自分にはまだまだ身長が伸びるポテンシャルがあったことになる。

きっと身長は2メートルを優に超えていて、今頃は八村塁と同じコートに立っていたかもしれない。

だが、その世界線は儚くも幼稚園の教室で潰えてしまったのだ。

 

あれから数十年の歳月が過ぎ、牛乳と自分はエスプレッソを仲立ちにすることで和解していた。

主にカフェラテを作るために日常的に牛乳を買うようになり、冷蔵庫には牛乳の居場所があった。

 

エスプレッソのショットを落とす前に、ふと魔が差して牛乳の味を確かめてみたくなった。

 

(ゴクッ)

 

あれっ、意外と飲めるな。