ブリュッセルでパスポートと全財産を盗まれた話⑪

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仏との運命的な遭遇により微かに見えてきた帰国への筋道。

 

ホテルに帰ってからすぐに帰国便を調べ、なんとか予約の手配を済ませることができた。

出発時間は夜になるので、全てが上手く運べば明日中に帰国の途につけそう。

 

それではここで伝説のカード「帰国のための渡航書」を召喚するために必要な生贄アイテムをおさらいしておこう。

 

①盗難にあった事を証明するポリスレポート←入手済み

②帰国便の航空券←手配済み

③写真(パスポートサイズで2枚)

④現地通貨(20ユーロ)←入手済み

⑤戸籍謄本←入手予定

 

ということで、残すは写真の入手のみ。

日本であればとても容易いことだけど、異国の地では勝手が異なる。

スピード写真の撮影機がベルギーにもあるのか不安に思っていたら、大使館のホームページにはご丁寧に設置場所が書いてあった。

 

治安の悪いブリュッセル南駅の付近で撮影機を探索するよりは、確実に大使館の近くで入手した方がよいと判断。

仏に教えてもらったテイクアウトのボックス中華を夕飯にして、勝負の1日に臨むことにする。

牛乳

初めて牛乳を飲んだ時のことは今でも鮮明に覚えている。

あれは幼稚園での出来事だった。プラスチックのコップに入れられた白い液体は独特な匂いを放っていた。

そして、一口含んだだけで自分とは相容れないものであることが本能的に分かった。

 

「牛乳を飲むと身長が伸びる」

この迷信を聞いたことがない人はきっといないだろう。

もしこの迷信が本当だとすると、自分にはまだまだ身長が伸びるポテンシャルがあったことになる。

きっと身長は2メートルを優に超えていて、今頃は八村塁と同じコートに立っていたかもしれない。

だが、その世界線は儚くも幼稚園の教室で潰えてしまったのだ。

 

あれから数十年の歳月が過ぎ、牛乳と自分はエスプレッソを仲立ちにすることで和解していた。

主にカフェラテを作るために日常的に牛乳を買うようになり、冷蔵庫には牛乳の居場所があった。

 

エスプレッソのショットを落とす前に、ふと魔が差して牛乳の味を確かめてみたくなった。

 

(ゴクッ)

 

あれっ、意外と飲めるな。

ブリュッセルでパスポートと全財産を盗まれた話⑩

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『日本人に見える人』はブリュッセルに留学している学生さんだった。

聞くところによるとこの近辺はあまり治安がよくないらしく、刃物で脅されてスマホを奪われたこともあるらしい。

 

こちらの事情を話したところ、帰国までに必要なお金を快く貸してもらえることになった。

こんな仏のような方にホテルを出て30秒で出会ってしまう自分の悪運の強さには驚くしかない。

 

仏のような学生さん「どこの空港から帰られるんですか?」

自分「フランクフルトから帰るつもりだったんですけど、渡航書だと陸路で国境を超えられないんですよね…」

仏「それは大変ですね…」

自「ブリュッセルから直行便でもあればよかったんですけどね…」

仏「直行便ありますよ。」

自「えっ!?」

 

JALマイラーの自分は全く知らなかったのだけど、ブリュッセルからはANAの直行便があったのだ。

仏のような学生さんは大きな問題を2つも解決してくれた。

なんとか帰れそうな予感がしてきたし、仏のような学生さんは本当に仏なのかもしれない。

(つづく)

ブリュッセルでパスポートと全財産を盗まれた話⑨

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パリでは日本人をよく見かけたけど、今のところブリュッセルでは一切出会っていない。

おそらく日本人探しは難航するだろうし、苦労して発見した日本人が力になってくれるとも限らない。

ひとまずは観光客の多いグラン・プラス(旧市街の広場)を目指すべきだろうか。

 

そんなことを考えながらホテルを出て、30秒くらい歩いたタイミングで前からアジア系の人間が歩いてくるのが見える。

近づくにつれて姿が鮮明になっていくんだけど、願望が入っているということもあり、もはや日本人にしか見えない。

中国人や韓国人でも日本人っぽく見える人はいるので、さすがにこんな簡単には見つからないだろうと思いつつ、恐る恐る声をかけてみる。

 

自分「すいません、日本の方ですか。」

日本人に見える人「はい、そうですけど。」

自(おいおい、マジかよ!)

 

まだ神に見放されていなかったというか、すさまじく悪運が強いというか・・・

(つづく)

ブリュッセルでパスポートと全財産を盗まれた話⑧

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帰国のための渡航書、まずはこれを発行できるように準備を進めることにする。

Google先生によると、発行手続きのために必要なものはこれだけあるらしい。

 

①盗難にあった事を証明するポリスレポート

②帰国便の航空券

③写真(パスポートサイズで2枚)

④現地通貨(20ユーロ)

⑤戸籍謄本

 

①②は手元にあるけれども、さすがに⑤の戸籍謄本なんて持ち歩いている訳がない。

色々と調べてみると、いったんデータやFAXで提出して、後から原本を送付する方法も可能らしい。

という訳で、今ごろ日本は真夜中だろうけれど、両親にメッセージを送っておくことにする。

明日の朝、目覚めた時にデータが届いていることを祈るしかない・・・

 

③の写真も持ち合わせていないので、新たに撮影する必要がある。

この国に証明写真の撮影機があるのかは分からないけれど、いずれにせよ費用はかかるだろう。

 

あとは、写真代に加えて④の20ユーロという(無一文の自分にとっての)超大金を用意する必要がある。

大使館に行けば貸してもらえるのかと思いきや、やはり公金ということもあって、そんなに簡単な話ではないらしい。。。

 

上記をざっくりまとてみると、現地通貨を用意しないことには帰国への扉は開かなさそう。

ブリュッセルでバイトをする訳にもいかず、日本から送金してもらうための海外口座もないので、ここは日本人を見つけてお金を借りる方法しかなさそう。

部屋に籠っていても事態は進展しないので、日本人探しの旅へ出ることにする。

(つづく)

ブリュッセルでパスポートと全財産を盗まれた話⑦

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なんとかホテルと話をつけ、今夜の寝床を確保することができた。

ついでに夕食も含めて決済したかったのだけれど、残念ながら日曜日はレストランがクローズらしい。

普段は朝食を食べないけど、現状だと帰りの飛行機まで食事にありつける見込みがないので、朝食のオプションは付けておくことにした。

いや、帰りの飛行機って本来だと明日の夕方だけど、それこそ現状では搭乗できる見込みがないような気が・・・

 

とりあえずは日本に帰るためには何が必要なのかを調べてみることにする。

iPhoneの充電器も盗まれた鞄に入っていたので、電池の残量にはかなり気をつける必要がある。

ホテルのフロントに充電器がないか聞いてみたのだけど、Android用ならあるとのこと。

まさかAndroidにしておけばよかったと後悔する日が来るとは・・・

 

パスポートを無くした場合、帰国するための手続きとしては2つのパターンがあるらしい。

1つ目はパスポートの再発行。

文字通り再発行を行うので、これまでと同じように出入国を行うことができるけど、受領までに1週間程度かかるらしい。

 

2つ目は帰国のための渡航証の発行。

これは帰国のために使途が限定された一回限りのパスポートというイメージ。

早ければ即日で発行できる可能性があるらしいけど、ベルギーから日本まで他の国に入国せずに帰る必要があるらしい。

他国でもトランジットで空港外に出なければ問題はないけど、例えばフランクフルト空港に鉄道で向かうのはドイツに入国することになるのでNG。

シェンゲン協定の加盟国だと往来の際にパスポートを提示することって基本的にないけど、厳密にはパスポートを持っていなければ不法入国になる。

という訳で使途が限定された帰国のための渡航証では、実質的に飛行機だけを乗り継いで帰国する必要がありそう。

 

入出国に関する制約はあるものの、この状況で1週間も延泊するのはありえないので、帰国のための渡航証の発行を目指すことにする。

ブリュッセルからフランクフルトまで空路で行けるのかとか、ターミナルが離れている場合にどうすればいいのかとか疑問は山のようにあるけれど・・・

(つづく)

ブリュッセルでパスポートと全財産を盗まれた話⑥

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およそ5時間ぶりにホテルへと戻ってきた。

本来ならば今頃はアムステルダムを観光しているはずが・・・

 

朝のチェックアウト時にはいなかった受付の女性に事情を説明する。

同じことを何度も話しているので、もはやスラスラと英語が出てくる。

パスポートのコピーがデータで残っていたので、プリントアウトしてもらうことに。

 

それを待ってる間にふと気がついたのだけど、今夜はアムステルダムのホテルに泊まるつもりだったので、今のところは宿がない状態。

さすがに異国の地で野宿というのは避けたいところ。

ただカードも現金も一切持っていないので、どうやって宿泊代金の支払いをするか・・・

 

何か手はないか考えてるうちに、まだカードを止めていないことを思い出す。

フランスで手に入れたSIMカードは国際電話に対応していないらしく、カード会社に連絡を入れたくても入れられないという状態だった。

そういう訳でまだ自分のカードは生きているので、このホテルのシステムに自分のカード情報が残っていれば決済ができるはず!

もはや野宿を避けるためにはこの手しか…

 

自分「このホテルにもう1泊したいんだけど…」

受付の女性「空室ならあるわ。」

自「昨日支払いをした時のカードの情報が残っていたら、それで支払いをしたいんだけど…」

受「確認してみるので、ちょっと待って。」

 

もしカードの情報が残っていなかったら、この後は野宿の場所を探さなければいけないのかと思うと気が重くなってくる。

この時期のブリュッセルはまだ寒いから朝を迎える前に冷たくなっていそうだし、治安も悪いのでもう1段階ほど身ぐるみを剥がされそうだなんて考えながら、受付の女性がパソコンを操作するのを待つ。

 

受付の女性「カードの情報は残ってたわ。」

自(よし、これで野宿回避だ!)

受「でも、あなたはカードを持っていないのに、ちゃんとカード会社からホテルに代金が支払われるの?」

自「それはカード会社が自分の銀行口座から代金を引き落とすから問題ないはず」

受「でも、カードは持ってないんでしょ?」

自(何を気にしてるのか分からないけど、これは一転して大ピンチだ…)

 

当然このまま食い下がるわけにもいかないので、支払いは問題ないということの一点押しで攻める。

とはいえ受付の女性も判断がつかないとのことなので、上司に相談してもらうことに。

フランス語で上司に電話しているのを祈るような気持ちで見守る。

 

受付の女性「上司に確認が取れたわ、決済して問題ないって。」

自分(よっしゃ、これで今度こそ宿確保だ!)

 

こうしてなんとか宿を確保することができた。しかし、あまり喜んでいる暇はない。

自分が帰りつくべき場所はこのホテルではなく、海を渡った日本なのだから。

(つづく)